真夜中に星を探して
あたしがそれを始めたのはもうずいぶんと前のこと。
しんと静まる夜中の空に、手を伸ばす。
見えない何かをつかむように、手を伸ばす。
あたしが手にしたいのは、星。
あたしがまだ小さな子供だったころ。隣の家には不思議なお姉ちゃんが住んでいた。
彼女はいつも窓辺の椅子に座って、空を見ていた。
ある夜、眠れずにカーテンをめくると、お姉ちゃんが窓を開けて、夜空を見上げていた。
「何をしているの?」
とあたしが聞いたら、にっこりと笑って
「星を探しているの」
と彼女は言った。
「手を伸ばしたら、いつか手が届くかもしれないと思って」
そう言って、もう一度にっこりと笑った。
それから、あたしも眠れない夜には彼女と一緒に夜空を眺めるようになった。
「どんな暗闇の中でも、自分を照らしてくれるような星をみつけたいの」
それが彼女の口癖。
それから季節がひとめぐりした冬。
彼女は突然窓辺に現れなくなってしまった。
「お姉ちゃんは星になったのよ」
とママは言った。
あたしはその意味を知るには幼すぎて、
「どうしてあたしを連れていってくれなかったの?」
と何度も質問しては、ママを困らせた。
あれからいくつも季節がめぐった。
あたしは彼女と同じ年になった。
髪も背も、同じぐらいに伸びた。
あたしの星は、まだ見つかっていない。
あたしは今も探している。
どんな暗闇でもあたしを照らしてくれるような星を。
掌編というにはオチがない。
童話的なものが書きたかったのだと思います。
2005年ぐらい