400words-#01:「春の日、僕と君と、さよならと」
ざあざあ、と雨のような音がしている。
風が吹く度に、無数の花弁がひらひと舞い落ちる。裏山から見下ろせば、満開の桜並木は薄桃の海のようにも見えた。
「たいした距離じゃないよ。電車で一時間ぐらいだし……休みになれば帰ってくる」
背中合わせの、君が呟く。
「ちょっとさ、こっちに来て並んでくれないかな。うん、そうそう。少しさ、背伸びして……」
僕の言葉に怪訝そうに、でも笑いながら律儀に君は、僕の隣で背伸びをする。
いつの間にか差の開いた背の高さの分だけ、違って見えるようになった目線。もう一度、僕と同じ目の高さで、僕に見えているのと同じ世界を、見て欲しかったんだ。
「――ばいばい」
明るく笑って、さよならの前に君は僕の名前を呼んで。
さよならの代わりに、僕は君の名を呼ぶ。 君がもう振り向かないことも、知っているけど。
お題「桜」
2010年5月